二丁目の魁カミングアウト(ミキティー本物/ぺいにゃむにゃむ)「私とぺいちゃんで守ろうって思えるような、二人にめぐり会えた」[Special Interview 前編]

  • WRITTEN BY 山末あつみ・向井美帆
  • PHOTOGRAPHY BY 周二郎
ぺいにゃむにゃむ/ミキティー本物

“ゲイでもアイドルになれる”をコンセプトに活動するゲイアイドル『二丁目の魁カミングアウト』。略称『二丁魁(にちょがけ)』。メンバーの卒業、コロナ禍でのライブ中止などを経験した彼ら。しかし諦めることなく、約4か月の間ミキティー本物とぺいにゃむにゃむの2名で活動を続けてきた。そして先日、新メンバーの筆村栄心(ふでむらえいしん)と日が紅(ひがくれない)が加入し、新体制での大きな一歩を踏み出した。そんなミキティー本物とぺいにゃむにゃむにロングインタビューを敢行。前後編でたっぷりお届けする。
前編では、新メンバーの筆村栄心と日が紅のこと、そして新メンバーと行なった合宿について聞いた。

後編はこちら
二丁目の魁カミングアウト(ミキティー本物/ぺいにゃむにゃむ)「その“ずっと”を実現することが今の新しい夢で目標」[Special Interview 後編]
https://wp.vdc.tokyo/article/9457


二丁目の魁カミングアウト
「ゲイだから」を理由に諦めたくない気持ちから、“ゲイでもアイドルになれる”をコンセプトに活動しているゲイアイドル。グループ名には、新宿二丁目から先駆けて“ゲイアイドル”というジャンルをカミングアウト(公言)していきたいという思いが込められている。


――先日、新メンバーとして筆村栄心(ふでむら えいしん)さん、日が紅(ひがくれない)さんが加入されました。まず、声優としても活動している筆村栄心さんのことについて教えてください。

筆村栄心

ミキティー本物(以下、ミキ) 筆村栄心とは、今回のオーディションを開催する前から知り合いでした。お仕事の関係で何回か挨拶をしたり、私たちのライブも観に来たりしていて。彼はその頃から、「二丁魁に入れたらいいな」と思っていたみたいなんですけど、当時はオーディションもやっていなかったし、4人で活動(元メンバー・きまるモッコリ、白鳥白鳥がいた当時の体制)していたので入れるなんて思わないじゃないですか。だから、夢物語みたいに考えていたそうなんです。

――では、オーディションを開催するまで新メンバーを入れることは想定していなかったのでしょうか。

ミキ 実は、きまるくんが脱退した段階で、「新メンバーを入れようか」という話も出ていたんです。でも、“きまるくんが抜けて一人減ったからメンバーを補充した”という感じにはしたくなくて。3人の力で、行けるところまでは行こうという話になり、そのタイミングで新メンバーを入れるのは止めたんです。そこからはくちゃんのこと(2020年6月末に発表された白鳥白鳥の活動終了)があったりもして、「これからどうやって生きていこうか?」くらいの話になっていて、私自身も全然頭が働かない時期もあったんですけど、ちょうどその頃、栄心くんと話す機会があったんです。そこで初めて、二丁魁に入りたい理由を聞いたんですけど、その時にビビっとくるものがあったんですよね。

――どんなところにビビっときたのですか?

ミキ まず、“声優活動をしながらアイドルをやりたい”という考えを持っていたところですね。以前の私だったら、「アイドルか声優どちらか選ぶべき」だと思っていたけれど、栄心くんと出逢ったことで、アイドルってすべてを捨ててまでしてやるものじゃないのかなって思い始めたんです。
 この先ずっとアイドルとして活動し続けていくなかで、私もぺいちゃんも新しくプラスでやりたいことができるかもしれない。ぺいちゃんが洋服屋さんを始めるとか、私がダイエット食品を研究して発売するとか、なんでもいいんだけど、人間だからそういうこともあると思うんです。だから、そこで大切なものを捨ててアイドル一本でっていうのは、逆にアイドルとしての人生を縮めちゃうっていうか苦しくなっちゃうのかなって……。それぞれが持つべき時間を持たないと一生アイドルなんてできないのかなと思うんですよね。そういうことを考えられるようになった、という意味でも栄心くんとの出会いにはすごく影響を受けました。
ぺいにゃむにゃむ(以下、ぺい) うんうん。
ミキ そして、もう一つ。今までゲイであることをカミングアウトしてこなかった彼自身に、もっと素直に生きて自分のことを好きになってもらえたら嬉しいとも思いました。
 というのも、カミングアウトをしてこなかったことによって、彼自身は嘘をついて生きてきたという感覚があるそうなんです。それは、私たち2人がゲイであることで抱えていた傷があったとしたら、まったく違う色のものだと思っていて。私たちのまわりには、普通に受け入れてくれる人がいたから『言いたいことも言えないこんな世の中じゃん』っていう曲ができたんだけど、彼は初めてライブであの曲を聞いた時に「1番、2番、3番、どのフレーズも自分にはあてはまらない」と思って泣いちゃったらしいんです。
 だからこそ「あの歌がちゃんと歌えるような人生を送りたいって思った」とも言っていて。「こんな素敵な歌を歌えるかもしれないのに、このままゲイであることを隠し続けて、そのチャンスを逃して生きていたくない。だから、本当の自分になって、ちゃんと夢を与えていける存在になりたい」と言ってくれたんですよね。
ぺい そうだね。
ミキ でも、やっぱり一番の決め手は歌とダンスでした。二丁目の魁カミングアウトとして私が求める声質というものが絶対的にあるので。栄心くんの歌声を聴いたり、ダンスを踊ってもらって、3人でやっていくということも少し考えていたのですが、ちょうどオーディションを開始する時期とも重なったので、あらためてオーディションを受けてもらうことにしました。
 そういう出会いで感じたこともあって、オーディションの募集条件も、他の事務所に所属していたり、すでに何か表舞台で活動していることだったりについて、NGにしなかったんですよね。あとは、“ゲイの方限定”ってすると、今までのはくちゃんを否定しているような感じになっちゃうから、何も言わないで“二丁魁になりたい人”っていう条件のみにしたんです。で、そのオーディションで、あらためて栄心くんのことをみて、合格となりました。

ミキティー本物

――筆村さん自身はもちろん、ミキさん自身そして二丁魁全体の考え方やありかたにも変化があった。本当にお互いにとってすごく素敵な出会いですよね。

ミキ 「声優を辞めてでも、アイドルをやりたいです」っていう感じじゃなかったのが、逆によかったんだと思います。もし、その考えでこられたら「やりたいことができたので、アイドル辞めます」ってできちゃう人かもしれないわけじゃないですか。栄心くんは「今まで声優として応援してくれた方もいるし、これまでにいろんな出会いがあったから、そこを切り捨ててアイドルをやりますっていう人になりたくない」って言っていたので嬉しかったですね。

――応援してくれている人を大事にしているって、すごく信頼できますね。

ミキ 本当にそう。両立となるとスケジュールがパンパンになることは伝えたんだけど、彼は「それでもどっちも絶対やりきれる」と言いきってくれたので。その言葉を信じようかなって思います。
ぺい ミキティーのなかで、ずっとアイドルをやっていく意思が強くなってきたからこそ、生まれた考えでもあるんじゃないかなと思っています。“若さを売りにしたアイドル”だったら「やりたいことはあとでやればいいや」と思って我慢できるんですけど、私たちは二丁魁を終身雇用のように考えていて。これからもずっと続けていきたいからこそ、他を切り捨てるんじゃなくて、やりたいことの一つとして実現していこうという考え方なんです。
ミキ この話を聞くと、「二丁魁はアイドルとして走っていくスピードが落ちちゃうんじゃないか」って、想像する人といると思うんだけど、それは一切ないので安心して欲しいですね。

――続いて、日が紅(ひがくれない)さんについて教えてください。

日が紅

ミキ 日が紅とは、オーディションで出会いましたね。会った瞬間、ビビっと来て合格、って感じではなかったんだけど、彼の人間性に惹かれた部分が大きいです。なんかね、今までの二丁魁のメンバーにはなかった空気感を持っている人なんです。彼がいるだけで周りがパッと明るくなるような。
ぺい うん。
ミキ ぺいちゃんは元気なタイプだけど、もう歳だからプライベートからわいわいしている感じじゃなくて、どっちからというと静かにまったりしていて。私もそうだったんだけど、日が紅は、すごく不思議な感じ。落ち着いているんだけど話し方や雰囲気に光が射すような子なんですよね。
ぺい うん。
ミキ なので、そこから“日が紅(日が暮れない)”。本当にその名前どおりで彼がいると夜でもそこに太陽があるみたいな感じの人で、そばにいるだけで元気になれます。ぺいちゃんは、どっちかというと寄り添ってくれる感じなんだけど、それとはまた違う。
ぺい エネルギッシュっていうんでしょうね。すごくパワーを持っている子だなと思いますね。
ミキ うん。そうだね。ずっとニコニコしてるんですよ。
ぺい そうだね。何を話してもずっとニコニコしてる。
ミキ その雰囲気に、心が洗われるっていうか、可愛いなあって思います。栄心くんと3人だったら今までどおりの二丁魁っていう感じになったと思うんだけど、彼が入ることによって一気に雰囲気が変わる明るさを持っていて。でも、パリピみたいな感じではないんですよね。あとは、もちろん声質。それにダンスもうまい。あと、めちゃくちゃ素直なところにも惹かれました。正直っていうか嘘をつかない子なんだなって思った出来事があって……。

――というと?

ミキ オーディションで、「正直、そんなに二丁魁のことを知ってるわけじゃない。ライブは見たことがあるけど、全曲歌えるかって言われたら知らない曲もあるんです」と言われたんです。その時に、「じゃあ、なんで二丁魁に入りたいの?」と聞いたら、「今はまだはっきりとわからない。だから、自分の中で確信に変えたくて面接にきました」と言ってきたんです。

――すごく正直な回答ですね。

ミキ そのあと、「ミキティーさんの夢ってなんですか?」と聞かれたんですけど、「日本武道館や横浜アリーナでライブをすることは一つの夢だけど、あれは目標だよ。夢は、居場所を守り続けること。例えば、それぞれに何かやりたいことがあっても、実家みたいに一つの居場所として二丁目の魁カミングアウトを守り続けていきたい。だから、ぺいちゃんとずっと一緒にいることも私の一つの夢だし、おなカマのためにその居場所を守り続けることも私の夢。だから、新メンバーが入っても、一緒にその居場所をずっと守り続けたいんだ」って話をしたんです。そしたら、「それを聞いて、やっと確信しました。直感でしかなかったけど、今の話を聞いて本当に自分もそうやって二丁魁として生きていきたいと思いました」って話してくれたんです。その時、すごく正直で素直で素敵な人だなって思ったんですよね。
ぺい そうだね。その質問の後から、彼の表情がパッと変わったのもわかりました。そこで、「この子のなかでも、やりたい意思が強くなったんだな」っていうのを感じましたね。
ミキ 日本武道館でライブをすることやメジャーデビューを目標にしているアイドルが多いから。そうじゃなくて、紅自身も一生大事にできるものを探していたのかなって思います。
ぺい 別にゲイだからってわけじゃないですけど、今のところは子供や家庭を築けないじゃないですか。だから、一生付き合っていくとか一生一緒にいられる仲間みたいなものって諦めている部分があって。だから、ミキティーが今言ったような実家みたいな存在、ずっと一緒に居られる人たちかどうかって私にとってはすごく大きいんです。紅に、私たちのその想いが伝わったのかなと思います。

ぺいにゃむにゃむ

――10月には、新メンバーと合宿を開催したそうですね。

ミキ オーディション最後の項目が、二泊三日の合宿生活でした。その合宿前に栄心くんと紅には仮合格を出していて、歌やダンスは毎日のように練習していて、まだまだ課題はあるけど、とりあえず大丈夫だねってなっていました。合宿を行なったのは、歌やダンスの技術はもちろん大切だけど、 “一緒に生活ができるかどうか”ということが、私たちにとって一番大事なところなんです。山中湖へ行って自炊をしたり、皆で掃除したりしたけど、楽しかったよね?
ぺい 楽しかったね(笑)。

――なかでも、印象的だったエピソードがあれば教えてください。

ミキ うーん。えっとね、どっちもやっぱり若いなあって思いました(笑)。
ぺい (笑)。
ミキ 何かを率先して「自分やってます!」っていう雰囲気を出すとかじゃなくて、自然で「あ、いろんなことができる優しい子たちなんだな」という印象を持ちました。私たちより年下なのにしっかりしていて、介護されている気持ちになったくらい……(笑)。
ぺい そうですね、本当に。
ミキ ご飯をつくる時も手際よく、さーっと動いてくれて。それを私はテーブルで見ていて、ぺいちゃんはやっているふりをして……(笑)。
ぺい (笑)。ちゃんと自分の意思でやろうと思って手伝ってくれているのがわかりました。「見られているからちゃんとやろう」みたいな意識って気づくじゃないですか。そういうのがなかった。
ミキ 全然なかったですね。逆に「ミキティーさん、これ切ってもらえますか」とか「ぺいさん、これちょっと取ってもらえますか」って声をかけられたりもしたしね。私は言われても、「え、自分でやって!」って言ったけど(笑)。あと、朝4時まで人狼をやったけど、面白かった。
ぺい 面白かった(笑)。人狼って、すごく性格が出るんだなって思いました。

――どんな結果になりましたか?

ミキ ほとんど私が勝ってた(笑)。
ぺい 超強いですよ。
ミキ 本当に一瞬だよね。
ぺい そう。
ミキ アプリを使ってやっていたんだけど、役職を見た時の表情でわかるんですよ(笑)。だからその時に「今後アイドルやっていくなかで、私には嘘をつけないんだよ」って言いました。そしたら「本当ですね。怖い」って(笑)。
ぺい 「敵にいたら怖いけど、味方にいたらすごくありがたい人だよ」って話もしたり。
ミキ 次の日は、富士急ハイランドにも行ったんだけど、本当に合宿全体をとおして普通に楽しかったですね。何がよかったって感想が出ないくらい、いい感じに溶け込んでいて印象的なことが残っていないっていうぐらい自然だったんです。
ぺい 本当にそう思いますね。
ミキ いい部分も悪い部分もなくて、だからこそよかったと思います。唯一、栄心くんが朝起きれないのが発覚したくらい。
ぺい (笑)。新メンバーも自然体でいられたと思うし、私たちも自然体でいられるし。いい意味でトピックがなかったですね。
ミキ そうそう。
ぺい 長く居続けるって、それが大切ですよね。
ミキ ……なんか、本当にいい子たちだよね。
ぺい うん。いい子たち……。
ミキ 私とぺいちゃんで守ろうって思えるような、二人にめぐり会えたと思います。

(後編へつづく)


【二丁目の魁カミングアウト】新体制初お披露目オンラインワンマンライブ
「This is not the Parallel World」 アーカイブ公開中!


■二丁目の魁カミングアウト INFORMATION

■LIVE
新体制初の有観客ワンマンライブ
『REAL GAY LIVE in EX THEATER ROPPONGI』
2020年12月14日(月) 18:30開場 / 19:30開演

配信ライブ
『ONLINE GAY LIVE in AiSOTOPE LOUNGE』
11月18日(水)・26日(木) 21:00~21:45

■TALK SHOW
配信トークショー
『はじめまして!二丁目の魁カミングアウトです!』
11月15日(日) 20:00~22:30

■OFFICIAL SITE
https://www.gayidol.jp/

■OFFICIAL TWITTER
@sakigake_gay

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